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特異な技術力と知見を活かす 酒類鑑定官の経歴を持つ『麒麟』蔵元が目指すものは

国税局鑑定官の経験も活かし、世界に通じる日本酒をつくる。

グルメ 地域

麒麟

下越酒造の代表取締役社長佐藤俊一さんは、農学博士の肩書きを持つ。東京大学大学院農芸化学科博士課程修了後は、国税庁に入庁し研究員や酒類鑑定官を歴任した。 

 

■いいものを造る覚悟

在任中は東京局、金沢局、醸造試験所、そして関東信越局と17年間にわたって、酒類製造業者の製造技術や品質管理技術の向上などを支援する立場にあった。

つまり、トップレベルの清酒造りを指導しながら、同時に各酒蔵で培われてきた酒造りのノウハウを目の当たりにしてきたとも言えるわけだ。

こうした経験は現在の酒造りにどんな影響を与えているか、との問いに佐藤さんは答える。

「当時、日本酒は国の重要な税収源でした。ですから、酒蔵指導においては腐造を防ぐことが至上命題。いいものを造らなくてはという意識は、その頃から私の中に刷り込まれていました」

 

1993年、鑑定官の職を退き、父・平八さんの跡を継ぐべく蔵に入った。ちなみに先代も国税局鑑定官の経歴を持つ。

全国の酒造場で酒造りの現場に接してきた人物が、親子二代にわたって経営トップの座にある酒蔵というのも珍しく、その特異な技術力と知見からは時代を読んだ商品が生み出されている。

 

■人生の晴れの席で飲まれる酒を願って

下越酒造の創業は1880年(明治13年)。主要銘柄の「麒麟」は、鎌倉時代にこの地に築かれた麒麟城の名にあやかる。

吉兆時に出現すると言われる空想上の動物・麒麟。「吉」を願って人生の晴れの席で飲まれる酒でありたい、との願いが込められている。

蔵の正面にはその麒麟城跡を擁する麒麟山が見える。

 

■かつては「会津藩領」の地

下越酒造

蔵を構える阿賀町津川は、阿賀野川と常波川が合流する地点の段丘に開けた町。

かつては会津と越後とを結ぶ会津街道の宿場町であり、また北前船の寄港地でもあった新潟と、会津地方を結ぶ阿賀野川の舟運の川港としても栄えた。

1886年に新潟県に編入されたが、それまでの700年余は会津藩領だった地。そのため食文化も会津地方の色合いが濃い。 そうした歴史もあってか、この蔵の酒は越後流「淡麗辛口」酒ばかりではない。

『麒麟』は香味のバランスがよく、味が綺麗できめ細やか。旨味があるも後味スッキリ飲み飽きしないタイプ。他に濃醇旨口の『蒲原』ブランド、長期熟成酒シリーズもあり、味わいのバラエティは豊かだ。

 

■出荷の1割は海外へ

下越酒造

下越酒造の製造内訳は、「特定名称酒」が8割を占めている。販売先は地元・県内が3割、首都圏を主体とする県外が6割、残りが海外。つまり1割前後が輸出用と、海を渡る商品の比率が高い。

販売先は米国、香港、台湾。海外戦略について尋ねた。

「1997年にSEA(日本酒輸出協会)が設立されて、それに参加しました。ジェトロの協力を得てロスやNYで試飲会をしたのですが、手応えが感じられたのです。

 

続いて米国の市場調査をしたところ、日本酒が認知されてきて進出にちょうどいい時期だと判断しました。好まれるのは香りがあって甘味の感じられるタイプですね」

 

現在は『蒲原』の純米吟醸五百万石を『Bride of the Fox』の名で出している。地元津川の狐火伝説から生れた「狐の嫁入り行列」にちなむ名前だ。

 

■熟成への挑戦も

下越酒造

同時にこの蔵では同じく20年ほど前から、新潟では希少な山廃造りに取り組み始めた。そのきっかけは熟成酒を想定してのもの。現在『麒麟』ブランドに「時醸酒」シリーズが展開されている。

いずれも兵庫県産「山田錦」を使い、常温熟成させたもの。2001年上槽の16年ものは日本酒度-22、濃い山吹色に輝きナッツやチョコ、アプリコット様の多層な風味を潜ませる。

「時が醸す酒、時醸酒に山廃を採用するのは、酸が多い方がいいから。熟成した濃密な甘味には、それとバランスの取れる酸味が必要なんです」と佐藤蔵元。確かな品質設計の元に時がもたらす変貌は、予測可能なようだ。

 

■自然と一体に個性ある酒づくり

下越酒造

下越酒造では品質を第一に、優れた自然環境のもと個性ある酒造りを目指す。

佐藤社長:良い原料と微生物の活動を支える清潔な自然環境。製造を手がける蔵人の造りに対する熱意と努力。常に品質を第一に、自然と一体となって個性ある酒造りを目指しています。

 

全国から高い支持を得ている「新潟清酒」をベースに、新しい切り口での商品も提案。長期熟成酒研究会にも所属し、熟成古酒にも意欲的に取り組んでいる。

蔵元が自信を持って勧めるお酒を紹介しよう。

 

① 『麒麟 秘蔵酒』

下越酒造

山田錦を使った大吟醸袋取りしずく酒の熟成酒。鑑評会出品仕様のお酒を香味の調和を崩さぬように、低温で5年以上貯蔵している。

ほのかな熟成香と穏やかな吟醸香、淡麗ながら風格ある旨み、そして心地いい余韻が特長。ローストビーフやアボガドのワサビ醤油などと。

 

②『麒麟 純米大吟醸こしひかり』

下越酒造

地元産コシヒカリを100%用いた純米大吟醸。一般に食べて美味しい米を酒にするとくどさが出るが、精米歩合45%の大吟醸造りでソフト&スムーズな仕上がり。

上品な香味の調和で女性や初心者にも向いている。冷やして切り子のグラスで、他に常温やぬる燗もお薦め。

 

③『蒲原 純米吟醸無濾過袋取り 生原酒山田錦』

下越酒造

一口目から美味しい… をキャッチフレーズにした新ブランド『蒲原』。純米吟醸には米違いが何種かあり、山田錦は兵庫県産を使用。

自社酵母で低温発酵させ、米の特徴を十分に引き出している。ふくよかな芳香ときめ細かな味の膨らみが調和して見事。「ワイングラスで美味しい日本酒アワード2012」で金賞受賞。 

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(取材・文/八田信江

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