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天然湧水仕込みに総槽搾り 新潟・糸魚川『雪鶴』の蔵元杜氏が手塩にかけて育てるもの

「糸魚川ブラックやきそば」などご当地グルメとも仲間になりたいと「ブラックシリーズ」も開発。

グルメ 地域

「『雪鶴』は力強い旨みがあり、かつキレのいい旨み豊かな地酒」 明治30年創業の田原酒造5代目当主・田原与一さん(65歳)は、自信を込めて語る。

60歳で代表取締役に就任したが、その2年後に杜氏が急逝。以来、自ら杜氏役を担っている。 

 

■マニアックな飲み手も支持

雪鶴

田原酒造では、特定名称酒の製造割合が85%。出荷先は県内よりも首都圏への割合が大きいという。淡麗辛口の新潟酒の中では変わっているという評価で、マニアックな客層が多いと蔵元は分析する。

雪の原野を優雅に舞う鶴をイメージして、『雪鶴』と命名したのは新潟財務局鑑定官の田中哲郎氏。戦前戦後と新潟県の日本酒業界を指導し、「新潟銘酒の父」と呼ばれた人物だ。

「研醸会」を設立して、国税局を退官後も『越乃寒梅』や『八海山』を含む県内16社の酒造りに関わった。造りには厳格すぎるほどの姿勢で臨むことを求め、杜氏たちを震え上がらせたと言い伝えられる。

雪国の綺麗なお酒を前提に、口当たり柔らかく酔い覚め爽快、体に優しい雪鶴の原型は、この時代に形作られた。 今期、新たに瓶燗火入れシリーズが誕生した。

 

■天然湧水で仕込む

雪鶴

雪鶴に使われる仕込み水は、頸城駒ヶ岳山麓の天然湧水。湧水の里西海地区(西海谷市野々)の湿原には、きめ細かく柔らかな水が湧く。

田原酒造では水利権を持つ農業組合と契約し、この天然湧水を取水。積載量2tのタンクローリー車で片道30分かけて汲みに行く。

12月中旬から3月初旬までは積雪で通行不能になるため、蔵内に1万ℓのタンクを設置し、仕込み水を確保している。 「水道料より高くつきます……」と蔵元は語るが、そうまでしてもこの水は雪鶴の酒質に欠かせないそうだ。

敷地内には井戸があり、かつてはその水を使っていたが、こちらは中硬水。辛口酒には向いているが、口当たり柔らかく優しい雪鶴を造るには適さないと語る。

 

■保湿保温効果も抜群の麹室

雪鶴

造りは和釜と甑で米を蒸し、解放タンクに仕込む。解放タンクのために、蔵付き酵母の影響もあって、雪鶴の酒質は生れるという。

昭和初期建造の麹室は壁厚1m、天井や床と共に籾殻がぎっしり詰められている。「籾殻は保温性に優れ、断熱材として優秀なんですね。熱源は電熱器ひとつで、30℃台を維持できます」と田原蔵元。

ここで造られる麹は昔ながらの箱麹法によるもの。小箱麹による少量仕込みだ。

 

■総槽搾りで上槽

雪鶴

発酵した醪は、総槽掛け袋搾りで上槽される。布でできた酒袋に醪を入れた後、槽に敷き詰めて、最初は積まれた酒袋の自重で酒がほとばしり出てくる。圧搾機で搾るより時間も手間もかかるが、味わいは綺麗。雑味の少ないお酒となる。

蔵には佐瀬式の搾り機が2基あるが、珍しいことにいずれにも槽の外側には白いタイルが張り詰められている。昭和の中頃に導入したらしいが、なんとも優雅。上槽という最終工程に、白い雪原を舞い立つ鶴に思いを重ねたのだろうか。

 

■ハイドロトリーターによる特許製法

雪鶴

雪鶴は、「酔い覚め爽やか、楽しいお酒」を歌っている。その根拠は4代目が開発した特許製法。NASAで使っていた水処理機「ハイドロトリーター」を利用するもので、それがもたらす特長は…

① 水とアルコールを強力に水和させることにより、長期熟成を経たように円く柔らかく口当たり優しいお酒になる。

 

② アルコールの吸収と分解をスムーズにするので、悪酔いの因子(活性酸素とアセトアルデヒド)の発生を抑え、体に優しい酔い覚め爽快なお酒になる。

 

③強力な還元力で酒の酸化を抑えるため、飲酒の後口に清涼感があり飲み飽きしない楽しいお酒になる。

 

この製法は昭和63年に特許を取得。新酒や無濾過生原酒もこの製法を利用すれば、ぴりぴり感が和らぐという。

 

■ブラックシリーズを展開

田原5代目:『雪鶴』の2015年の新商品を発売する際に「ブラック」の名をつけました。「鶴なのになぜブラック?」と思われますよね。じつは糸魚川ではご当地グルメに「ブラック」の名がついています。ブラック焼きそばはその代表。地酒もその仲間にとの思いで、誕生したものです。

 

このお酒は超辛口ですが、女性にも飲んでいただきたいと考え、昨年、やや甘味旨みを持たせた「ブラックレディー」も新発売しました。男女ペアで「ブラック」と「ブラックレディ-」を飲み比べてみてください。

 

出荷するお酒は全て、熟成効果をもたらす装置ハイドロトリーターを通しているという雪鶴。「口当たり柔らかで優しく、旨み豊かで酔い覚め爽快」がキャッチフレーズだ。蔵の代表商品は次の通り。 

 

①『雪鶴 ブラック』

雪鶴

2015年秋にリリースした普通酒。原料米には「五百万石」と「こしいぶき」を使っている。日本酒度+10と超辛口ながら、旨み十分。

華やかな香り、軽やかな口当たり、爽やかな後味でかつ鋭いキレが特長で、和食全般によく合う。冷酒がお薦め。

 

②『雪鶴 大吟醸 三年古酒』

雪鶴

鑑評会出品酒の大吟醸を3年以上冷蔵貯蔵。「山田錦」と1801酵母を使っている。熟成しているため、香りまろやかで旨み濃厚。しかもキレがいい。食前、食後酒に最適、肴はいらない。

 

③『雪鶴 純米吟醸 無濾過生原酒』

雪鶴

精米歩合58%の「五百万石」を使用。20年ほど前に発売し、冬の看板商品になっている。旨口で力強く、冷やしても常温でも美味。「おでんと合わせてみてください」とのこと。

・合わせて読みたい→「新潟銘酒の父」の教えが流れる糸魚川の酒 蔵人の栽培米だけでつくる6人の蔵とは

(取材・文/八田信江

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